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理事長あいさつ

特定非営利活動法人
瀬戸内海研究会議
理事長 多田 邦尚
(香川大学農学部教授)

日本の国内最大の内海である瀬戸内海は、世界においても比類のない美しさを誇る海です。世界の名著『武士道』の著者であり、国際連盟事務次長を務めた新渡戸稲造は、小西和の『瀬戸内海論』の出版に寄せてその序文で「瀬戸内海は世界の宝石なり」と述べています。また、シルクロードの命名者であるドイツの地理学者フレジナンド・リヒトホーフェンはその旅行記『支那旅行日記』に「将来この地方は、世界で最も魅力のある場所の一つとして高い評価をかち得、沢山の人々を引き寄せることであろう」と瀬戸内海を絶賛しています。瀬戸内海は昭和9年に雲仙・霧島とともに、日本で最初の国立公園に指定され、今年(令和6年)で国立公園制定90周年を迎えました。

瀬戸内海は過去の高度経済成長期に、急激な重工業化と特定地域への人口集中化、生活環境整備の立ち遅れなどのために著しく富栄養化が進行しました。当時は赤潮の多発、貧酸素水塊の発生などの状況から「瀕死の海」と呼ばれるまでにその環境は悪化していました。1973年には、瀬戸内海環境保全臨時措置法(1978年に特別措置法と改称、いわゆる瀬戸内法)が制定され、水質を中心に環境改善の努力が続けられました。その結果、水質はかなり改善され、赤潮発生件数も最頻時(瀬戸内法制定当時の1976年に299件)の1/3 以下にまで減少しています。しかし、一方では、イワシやイカナゴなどに代表される漁獲量やアサリの激減等が問題となっています。更に、2000年以降には、瀬戸内海の東部海域で養殖ノリの色落ち問題が深刻になりました。

このように、現在の瀬戸内海は、従来の富栄養化問題とは異なる漁業被害が顕在化し、逆に「きれいすぎる海」の問題に直面しています。令和5年に瀬戸内法制定50周年を迎えましたが、残念ながら現状を見るかぎり、瀬戸内海は決してきれいで豊かな海とは言えない状況にあります。

瀬戸内海は私達にとってかけがえのない財産であり、この海の自然環境を美しく健全な状態で次世代に引き継ぐとともに、これまで育んできた瀬戸内海文化の継承と新たな文化の創造が強く求められています。しかし、瀬戸内海は私達の身近にありすぎて、その重要性が認識できずにいるように思います。私たちの瀬戸内海研究会議(以下、「研究会議」)は、「分野横断的・学際的な研究集団」です。研究会議は、自然科学はもとより人文・社会科学などあらゆる学問分野の英知を結集し、瀬戸内海の総合的な環境の保全と適正な利用等に関する研究調査を行うとともに、その成果を活用して広く普及・教育・提言を行い、研究者、住民、行政、および事業者等の多様な主体が連携し、自然の営みが融合した美しく豊かな瀬戸内海の実現を目指しています。

瀬戸内海の環境保全を願い支えて下さる皆さま方に、引き続き暖かいご理解、ご支援、ご協力をお願いして、ご挨拶とさせて頂きます。

2024年秋