議事録

 

21世紀の新たな瀬戸内海の環境保全・修復・創造
−瀬戸内海で何が行われ、何が行われなかったか、今後何をすべきか−
日時 平成13年11月22日(木)9:30〜12:00
場所 淡路夢舞台国際会議場イベントホール

 



  過去・現在そして未来の瀬戸内海

●事務局
 おはようございます。定刻となりましたので、ただいまから瀬戸内海セッションを開催させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 セッションに入る前に、お手元の資料の確認をさせていただきたいと思います。「第5回エメックス会議のプログラム」、それから「瀬戸内海セッションプログラム」という本日の発表要旨集、環境省と(社)瀬戸内海環境保全協会が共同で作成した資料集「瀬戸内海」、そして「瀬戸内海セッション参加者コメント用紙」をお配りしてあると思います。そのほか関係資料も入れてありますが、セッション中は特に「瀬戸内海セッションプログラム」を参照しながら話をお聞きください。
 瀬戸内海はその経済的・地理的な条件や穏やかな海域の特性等を背景に、特に戦後の高度経済成長期には産業が沿岸に集積し、多くの浅海部が埋め立てられ、工場排水や生活排水により赤潮が頻発し、「瀕死の海」と言われていました。しかし、昭和48年(1973)に瀬戸内海環境保全臨時措置法、そして昭和53年(1978)には特別措置法が施行されて、各種の施策を実施したことにより、一定の成果を上げました。
 一方、過去の開発などで蓄積された環境への負荷や新たな環境問題への対応など、多くの取り組むべき課題も指摘されています。瀬戸内海において今後どのような展開を図っていくかは、国内外の閉鎖性海域の共通の課題でもあります。そこで瀬戸内海でこれまで何が行われてきたのか、そして何が行われなかったのか、また、他の閉鎖性海域の取り組みとの情報交換を通じて、21世紀に何をすべきかについて話し合うために、第5回エメックス会議の特別セッションとしてこの円卓会議を行うことといたしました。
 この円卓会議の進行要領を最初に説明しておきたいと思います。まず「何が行われたか」、次に「何が行われなかったか」、そして「今後何をすべきか」、こういう順序で、円卓参加者にご発言いただきたいと思います。会場の参加者にはコメント用紙をお配りしてありますので、瀬戸内海の環境保全、修復創造対策などについて特に力を入れていくべき課題、あるいは円卓参加者の発言に関するコメントがあればお書きいただきたいと思います。それではセッションに入ります。
 発言者には事前にキーワードの提出をお願いしておりましたので、そのキーワードに基づいてコメントをいただいてまいります。会場の参加者の皆様は、お手元のプログラムを参照しながらお話をお聞きください。
 それでは最初に、これまで何を行ってきたかということに関しまして、北九州市の井上正治様、お願いいたします。

 

  洞海湾を「命ある海」へ

●井上正治氏(北九州市環境局環境保全部長)
 自治体からの参加者は私一人ですので、まず瀬戸内海環境保全知事・市長会議についてご紹介します。この会議は、瀕死の海と言われました瀬戸内海を蘇生させ、美しい自然と人との共生の場として将来の世代に受け継いでいくため、昭和46年(1971)に沿岸の11府県と幾つかの市で設立されました。設立当初に取り決めた「瀬戸内海環境保全憲章」は沿岸の自治団体に深い感銘を与えるとともに連帯の機運を高め、住民の実践活動につながりました。また、昭和48年(1973)には、この会議の国への働きかけによって瀬戸内の臨時措置法が制定され、その後、恒久法である特別措置法へと進展しています。このように、この会議は瀬戸内海の環境保全に大きな貢献をしたものと考えています。
 さて、北九州市は瀬戸内海水域の一番西の果てに位置しています。今日は北九州市の水域のうち1960年代、海域の水質ワースト3にランク付けされた洞海湾の水質改善について述べたいと思います。
 洞海湾は、戦後日本の4大工業地帯の一つであった北九州工業地帯に取り囲まれた奥行き10km 、幅1km の細長い湾です。昭和34年(1959)以降、工場排水などで水質汚染が進み、生物が全く住めない死の海と呼ばれました。この洞海湾の水質改善は、当時、大気環境の改善とともに市政の最重要課題の1つでした。しかし現在の洞海湾は、100種類以上の魚介類が住み、500種類以上の生物層が認められる命ある海に戻っています。これは主に3つの水質改善対策の結果です。1つは法令による工場排水規制、2つ目は公共下水道の整備、3つ目は湾内に堆積したヘドロの浚渫です。
 洞海湾に排出する工場からのCOD負荷量は、昭和44年(1969)当時、1日当たり約230 トンでしたが、排水規制後、現在では10トン以下に削減されています。昭和39年(1964)に本格的に開始した下水処理も、平成12年(2000)度末には公共下水道普及率が97.5%までになり、生活排水による汚濁負荷も削減されました。
 ヘドロの浚渫は昭和49年(1974)から昭和51年(1976)3年間に、18億円をかけて湾内の総量480万m3のうち35万m3を除去しました。学識経験者も含む研究会で、洞海湾の水質改善のためには有害物質を多量に含有したヘドロの浚渫が欠かせないという結論が出され、ていた水銀に着目し、水銀含有量30ppm以上のヘドロについて特殊な工法を用いて浚渫したものです。このような対策で洞海湾の水質は劇的に改善されました。本日配布している「人の地球と次の世代のために」という北九州市の環境国際協力のパンフレットに、水質改善の経年変化を掲載しておりますので、ご覧ください。
 水質改善された洞海湾では、現在、下水処理場の放流水を用いたビオトープやムラサキイガイによる海中ビオトープの創造を試み、市民の憩いの場や環境教育の材料となっております。しかし残された課題もあります。富栄養化が進み、プランクトンの数で見ると、常に赤潮状態といって過言ではありません。また、貧酸素水塊も出現しています。リンはともかく、窒素に関してはまだ環境基準に適合していません。このため数年前から窒素削減対策を進め、かなりの成果を上げていますが、今後も環境基準達成を目標に、さらに対策を進めたいと思っています。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 ただいまは、瀬戸内海沿岸地域の地方自治体の取り組み事例についてご報告がございました。次は、国の取り組みをご紹介いただきたいと思います。
 国土交通省近畿地方整備局の尾崎正明様にお願いしますが、資料は宇塚様のペーパーを使ってご説明をいただきます。

 

  流域単位で水質を守る「流総計画」

●尾崎正明氏(国土交通省近畿地方整備局建政部都市調整官)
 それでは、私から「流域別下水道整備総合計画(以下、流総計画)」について説明させていただきます。まず初めに、下水道の特徴について整理させていただきます。閉鎖性海域の水質保全のための施策としては、陸域から排出される汚濁負荷の削減が非常に重要です。下水道は、公共用水域の水質保全のための最重要施策として位置付けられてきました。河川や湖沼のみならず、閉鎖性海域の水質保全対策としても極めて重要です。特に瀬戸内海のように、人口・産業の集積した地域では、人為的な汚濁負荷削減のために下水道による排水処理が最も効果的と考えられます。また、閉鎖性水域における富栄養化の対策としては、下水処理過程で高度処理を実施することが効果的です。
 次に、流総計画についてご説明いたします。日本では公共用水域の水質保全のため、河川の流域単位で最も効果的な下水道整備を図るため、総合的な下水道整備の計画として流総計画の制度があります。この流総計画は、市町村または都道府県の管理する個別の下水道の基本計画や事業計画の上位計画として都道府県で定められるものです。特に複数の都府県に関係する水域や海域の場合には、計画策定に際して国が都道府県間の調整を行うことに特徴があります。
 流総計画は、制度が創設された昭和46年(1971)から現在までに全国122カ所で策定され、主要な河川や内湾の流域にあたるほとんどの地域、全国170カ所余りで策定、または策定中です。
 本計画の対象となる流域は、日本の国土面積では4分の3、人口ではおおむね9割を占めております。この計画の制度で下水道の整備が促進され、公共用水域の水質改善が大きく進みました。平成12年(2000)の全国の下水道普及率は、全国平均60%です。閉鎖性海域の事例では、東京湾で83%、伊勢湾で48%、瀬戸内海でほぼ全国平均並みの61%になっています。
 瀬戸内海の流総計画につきましては、瀬戸内海に流入するすべての河川流域32の流域で策定済み、または策定中です。策定に当たっては、国が瀬戸内海の大阪湾、備讃瀬戸、周防灘など8つの海域ごとにそれぞれの環境基準を達成するため必要な府県ごと
分を行います。それに基づいて府県で流総計画が策
定されるのです。
 最後に、高度処理についてご説明します。大阪湾を例にとると、国では平成7年(1995)度に窒素、リンの配分を行い、これに基づいて昨年末に大阪府が、今年の夏に兵庫県が流総計画の見直しを行いました。
その他の府県でも、現在、見直しに着手されています。この見直しと計画の制度により、今後、高度処理が進められるものと思っています。高度処理の現状については、全国平均で平成12年(2000)で8%です。閉鎖性海域ごとに見ると、東京湾で5%、伊勢湾で9%ですが、瀬戸内海には全国で1位、2位の高度処理が普及している滋賀県や大阪府があることもあり、全国平均の約2倍の15%に達しています。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 国土交通省からは、下水道の整備についてのご紹介がございました。それでは、環境省の立場で、柴垣泰介氏に、これまで何をしてきたのかご紹介いただきたいと思います。

 

 

「瀬戸内法」というユニークな法律

●柴垣泰介氏(環境省水環境部閉鎖性海域対策室長)
 私は、「瀬戸内海環境保全特別措置法(以下、瀬戸内法)」について簡単にお話させていただきます。今日お配りしました「瀬戸内海」というパンフレットの中に、この法律の解説と全文を掲載していますので、後ほどお読みいただければ幸いです。
 北九州市の井上さんのお話にもありましたように、この法律は瀬戸内海環境保全知事・市長会議、まさに自治体の首長が主導する形で制定されました。地域特別立法といっても、大阪湾のベイエリア整備法のように、地域振興法ではなく、この瀬戸内海の特別措置法のように、その地域だけに環境規制を行うという法律は非常に珍しい例です。法律が制定された昭和48 年(1973)は、ちょうど高度成長期の終わりで、全国的な公害問題が起こっていました。そんな時代を背景にして、自治体の首長がみずから規制強化を求めたのです。
 法律の基本計画の趣旨には、「世界的な景勝地として、また漁業資源の宝庫として国民が等しくこれを享受し、将来に継承する」といった、かなり大きな理念を掲げ、また計画自体もマスタープランとして広く施策の基本的な方向がうたわれています。しかし、実際の法律の中身は、「産業系の汚濁負荷の2分の1削減」というように、かなり産業系水質汚濁の規制を強化するというものになっています。ですからマスタープランと実際の法律に基づく施策の間のギャップが、この法律に対する期待と失望の背景にあるように思います。
 埋立ての抑制が盛り込まれていることも評価されていますが、実際の内容は公有水面埋立法の免許に際して免許権者の都道府県知事が瀬戸内海の特性に配慮するといったもので、埋立てを禁止しているわけではありません。
 産業系の汚濁負荷量を2分の1に削減するというのは、産業界にとってかなり厳しいものだったのではないでしょうか。その後も水質総量規制制度という汚濁負荷全体について生活排水や畜産なども含めた総量の削減を図る措置を導入し、流入負荷量の削
減という面ではかなり大きな成果があったと思います。瀬戸内法の限界については、また後ほど触れたいと思います。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 地域振興のためではなく、ある種の規制を目的としながら、特定の地域だけを対象にした法律という意味で、瀬戸内法が非常にユニークであるということですね。その結果、大変厳しい対策を集中的に講じてきたと。特に産業界に対しては厳しかったのではないかということですが、それを受けて、次は産業界としてはこれまでどういう思いを持ってこられたのか、関西電力株式会社の平山孝信様からご紹介いただきます。

 

  産業界の環境保全の責任

●平山孝信氏(関西電力滑ツ境技術グループチーフマネジャー部長)
 大変厳しい規制を受けたということでご指名がありましたが、産業界の我々としましても、瀬戸内海の豊かな自然環境を保全し、沿岸域の住民が豊かな暮らしのための持続可能な経済発展を目指すことは大変重要なことと受け止めており、積極的な取り組みが必要だと考えています。このことから、特に瀬戸内海の水質汚濁防止に関する規制については昭和48年(1973)以来、これまで幾度となく規制強化が行われています。これに対して産業界として最大限の取り組みを行い、対策を実施してきました。
 COD負荷量の削減状況を見ても分かりますように、平成11年(1999)の1日あたりの目標305トンに対して、平成8年(1996)現在で既に302トン以下となり、産業界からの負荷量は十分削減目標をクリアしています。これは瀬戸内海域の産業系だけの特徴で、積極的な取り組みの成果だと思っております。にもかかわらず、瀬戸内海の水質は横ばい状態です。このことに対しては規制強化のたびに、これまでの対策と効果についての評価を明らかにするとともに、富栄養化のメカニズムを解明し、真に実効性のある取り組みをすべきであると提言してきました。しかし、いまだ十分に明らかにされないまま今日に至っております。
 今回、5次規制としまして、COD に加えてさらに窒素、リンの総量規制を導入することになっています。富栄養化メカニズムの科学的解明を一層進めるとともに、原因別の科学的知見に基づいた有効な選択肢を、その費用対効果を含めて提示し、今後必要により計画の見直しなどを行う必要があると考えています。
 また、平成9年(1997)に環境影響評価法、いわゆるアセスメント法が制定されました。大規模事業開発に対して環境アセスメントの実施が義務付けられています。それに先駆けて、発電所の建設に関しては昭和48年(1973)から、また、その他の大規模開発事業についても、都道府県の指導によるアセスメント要綱等に基づいて適切な環境アセスメントを実施し、環境への影響をできるだけ少なくするとともに、環境の保全、保護、調和に努めています。これらの活動は、地元の行政や住民と十分に議論をし、コンセンサスを得ながら進めてきているつもりです。今後も引き続き、積極的に環境保全に取り組んでいきたいと考えています。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 産業界も、この瀬戸内海をよくするために努力をしてきたけれど、次から次と規制の矢が放たれた。特にリンと窒素の両方を規制することについては、科学的な解明を十分にしてもらいたいという注文もなされたわけです。これまで地方自治体、国、そして産業界が、瀬戸内海の水質改善のためにさまざまな形で努力をしてこられたというご紹介がありましたが、一方で、それでもまだ足りなかったのではないか、あるいは十分なされてこなかった面もあるのではないかという視点が、NGOや漁業サイドから指摘されているのではないかと思います。それでは次に、「何が足りなかったのか、何が行われてこなかったのか」ということに関してお話をいただきたいと思います。まず、漁業者の立場から、山口県漁連の金子信義様にお願いします。

 

  現状認識と教育が不十分

●金子信義氏(山口県漁業協同組合連合会専務理事)
 すべての排水は、海に流れてきます。その海で生活をする漁業者の立場から申し上げたいと思います。
 従前、非常に豊かな宝の海であった瀬戸内海が、その生態系が破壊された海へと変貌してきたことをまず現状認識していただきたいと思います。海面漁業の生産量を見ましても、昭和60 年(1985)の49万トンをピークに非常に低いレベルで23万〜26万トン程度に落ち込んできています。その中で、最近は栽培漁業として種苗放流をやっていますが、それらの魚種は比較的安定した生産を行っています。ところが、底魚類や貝類、特に小型エビ、イカナゴ等大型魚類の餌となるような小型魚の漁獲量が総体的に減少しているのです。環境の変化による影響を受けやすい小さな魚の再生が困難となっているのではないかと思うのです。
 先ほどから、いろいろな対策の発表がなされましたが、我々から見れば、縦割り行政で連携が不十分です。COD の排水規制はそれなりの効果は出ているものの、見た目だけの、特に景観中心の環境整備が主体で、生態系の回復や食料の再生産の場である海が果たす機能に対する現状認識と、それに伴う教育が十分でなかったのではないか、と思うのです。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 かなり厳しいご指摘がありました。データでは、特にCOD レベルでは、明らかに水質改善がされているにもかかわらず、漁獲高の面では、対策後の昭和60年(1985)と比べても、平成11年(1998)には3分の2ぐらいに減っているということもあり、別の要因が徐々に進行しているではないかという気さえいたします。それから、行政の縦割りの弊害も指摘を
されました。NGO サイドとしては、この瀬戸内海の対策についてどうとらえているのか、ここで、環瀬戸内海会議の阿部悦子様にコメントをいただきたいと思います。

 

  不足していた生態系保全対策

●阿部悦子氏(環瀬戸内海会議代表(愛媛県議会議員))
 環瀬戸内海会議には、瀬戸内周辺や東京都など、12都府県で65団体の環境保護団体が集まっています。平成2年(1990)から立木トラストによるゴルフ場の阻止の運動を始めまして、現在では、豊島の産業廃棄物不法処理の現場に森をつくるという運動もしています。「何をしてこなかったのか」という点では、私は生物相、生態系構造についての調査や対策が欠けていたように思います。瀬戸内法
以降、水質改善や埋立ての規制などが行われてきましたが、現実の海、住民サイドで見た海は、「瀬戸内周辺で貝を掘る風景が本当になくなった」とか、「知り合いの漁師さんが獲る魚の量が、戦後すぐの50年前の3〜5%になってしまった」というような非常に深刻な事態になっています。
 水質改善の状況と、私たち住民が見る瀬戸内海の実感との間に、どうしてこんなにギャップがあるのかと申しますと、それは打ち続いてきました埋立てで、干潟や藻場が減少し、生物の再生産に欠かせない産卵と生育の場が減少してきたことに原因があるのではないかと思います。今、埋立て―その埋立地は廃棄物によって埋め立てられている場合が多いのですが―と、海砂採取が続く中で、海岸から水深10mぐらいまでの浅海部分が非常に少なくなりました。そして、貴重な藻場が軒並み消滅したというところに、このギャップの要因があるように思われます。例えば、岩國基地沖の藻場、干潟では、藻場41ha 、干潟42ha の近辺で埋立てが進んでいます。基地の拡張に伴う埋立てです。また、上関の原発予定地では、長島というところで計画されていますが、ここは「小さな太平洋」とも言われるように、黒潮の影響もあって瀬戸内海にしては希少生物が多種多様に存在しているところです。こうした埋立てについて、瀬戸内法はどれだけ役割を果たしてきたでしょう。何とかしてこの瀬戸内海を回復したいと思いますが、私は本当にきちんとした対策、生物相に配慮した対策を立てていけば、瀬戸内海は回復の見込みがあると思うのです。
 瀬戸内海の豊かさと大きさに期待したいと思うのですが、例えば海砂利採取を禁止した後の竹原沖では、禁止後2年ぐらいでその海の透明度が上がり、ガラモや藻場が十数年ぶりに復活したという報告があります。また、豊島の不法投棄された産業廃棄物の処分場の現場では、昨年秋から環境保全措置が行われており、ここにも現在、磯の香りが戻り、アマモ場が復活しているという報告があります。そのためにはぜひ、瀬戸内法の改正、抜本的な実効力のある改正を急がなければならないと思っております。具体的には「埋立ての禁止」「海砂利採取の全面禁止」「廃棄物の持ち込み禁止」ということです。私たち環瀬戸内海会議は、これらに関する既存データの収集を始めています。海岸生物の調査と定点観測法の確立をし、今後約3年かけて瀬戸内法の改正、海砂の採取、廃棄物持ち込み、埋立て禁止についての法規制を盛り込むように試案づくりを進めているところです。会場の外に資料を用意していますので、ぜひお求めください。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 NGOからは、さすがにいろいろと厳しいご指摘がありましたが、確かに瀬戸内海法でいろいろな施策が講じられてはきたけれど、現実に瀬戸内海を眺めてみると、先ほども漁業者の方からご指摘があったように漁獲高は減っている。それから昔、貝をとったりした浜辺はもうなくなっている。そして干潟がなくなっている、藻場が減っている、そんな指摘もありました。こうなった以上は、瀬戸内法を抜本的に見直して、埋立ては原則禁止とするぐらいの措置が必要なのではないか。海砂利採取の禁止、廃棄物の投棄も原則禁止というぐらいの強い対策を講じれば、再び美しい瀬戸内海が取り戻せるのではないかという指摘があったと思います。
 衛生団体としては数々の活動をこれまでしてこられたわけですけれども、やはりいろんな活動の中でどういうことが不足であったのか、ご指摘をいただきたいと思います。(財)広島県環境保健協会の薦田直紀様、お願いします。

 

  心がけキャンペーンに終始

●薦田直紀氏((財)広島県環境保健協会地域活動支援センター長)
 広島県環境保健協会は、いわゆる地域社会とか町内会をベースにしてつくられた組織です。同じような瀬戸内海沿岸の9府県市の衛生団体連合会のネットワーク組織(瀬戸内海環境保全地区組織会議)での取り組みをもとに報告したいと思います。
 この組織ができたのは昭和48年(1973)です。(社)瀬戸内海環境保全協会が設立される前に、まずそういうネットワークをつくって、もっと活発な活動をしていこうという趣旨で、これまで活動をしてきました。
 やってきたことは報告要旨にも書いていますように、6月の「瀬戸内海環境保全月間」を中心に、「水域クリーン運動」という、住民による河川や海浜等の清掃美化活動の展開です。活動の様子は、毎年ささやかな冊子に取りまとめて発行し続けていますが、それぞれの府県市団体で10万〜15万人ぐらいの参加があったということですから、沿岸で約100万人の動員があったということです。
 昭和54年(1989)からは生活排水浄化運動にも力を入れ、水辺教室なども開催しました。しかし、厳しい見方をすると、これらは、いわゆる心がけキャンペーンに終始したのではないかと反省しております。なぜなら、水域クリーン運動というのは年に1、2回と単発的で、しかも市町村別や海浜別など非常に地域限定的だったという面があります。また、生活排水浄化対策運動では、「リンを減らそう、無リン洗剤を使おう」とか、「台所の細かいごみを流すのを少しでも減らそう」などと訴えてきましたが、それがどこまで普及し改善されたのかという評価がありません。そんなことを考えると、単に意識を高めるための年中行事になってしまった感が拭えないのです。つまり、そういう意識を、次の環境配慮行動の実践や定着につなげる仕掛けが不十分であったと思うのです。「仕掛け」には、簡単に言うと3 つの要素が必要です。つまり「誰でも取り組むことができる」、「実行すれば目に見えて得をする」そして「社会規範として定着していく」こと。そんな仕掛けが不十分であったと反省していますそれから水域クリーン運動については、波状的で共同的なものにならなかったことが反省点です。衛生団体は衛生団体で、ある特定の時期に、また漁業団体は7月の海の日を中心に、といった具合です。
 もう一つ新しい手法として水辺教室などの環境教育、環境学習、いわゆる体験学習というものを導入しましたが、これについても継続性という面から見ると年に1回やった。でも次の年はやらなかったという面がまだまだ強いのではないかと思います。こういった面については、来年度から学校で総合的な学習というのが本格展開されますので、そこにも期待したいと思います。以上、衛生団体としては一生懸命やってきているつもりではあるけれど、厳しい見方をすると、まだまだ心がけに終始しているということを、反省も含めてご報告しました。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 どちらかというと、衛生団体のご活動は国民に心がけを求めるということをやってきていただいたわけですが、どうしてもそれがキャンペーン的に、単発的に、行事的になり、本当に定着したのかどうか。その効果の把握方法が必ずしも明確でなかったという反省の言葉がございました。
 それから、各種団体がそれぞれの活動はしているけれども、目的が必ずしも一致していない。同じ方向を見ていない。それぞれがかなり自分たちの団体の目的に、ややこだわって運動を進めてきた気配もあるというような反省点も示されたと思います。
 以上、これまで地方自治体、国、産業界に「こういうことを頑張ってきたんだ」というお話をしていただいて、それから、漁業団体、NGO、衛生団体からは、そうは言っても、こんなところがまだ不足していたり、効果が現れていないというようなコメントを続けて出していただきました。それでは、新しい視点でこれから取り組むべき課題は何だろうか。21世紀、これから私たちはこんなことをやっていきたい、あるいは国や地方自治体にこんなことを求めていきたいというお話に変えていきたいと思います。発言者が重複しますが、今度はそんな視点からコメントをいただきたいと思います。まずは国の立場から、国土交通省近畿地方整備局の福田幸司様に口火を切っていただきましょう。

 

  環境と共生する港湾「エコポート」

●福田幸司氏(国土交通省近畿地方整備局港湾空港部長)
 瀬戸内海という観点で、ある意味で一番大きなインパクトを与えたのは、昭和37年(1962)につくった全総計画の中で、拠点開発方式で臨海工業地帯をつくっていこうと瀬戸内海で開発を進めてきたことではないかと思っています。
 そういう意味で、港湾として今まで何をしてきたかについて話すべきかもしれませんが、時間の関係もございますので、港湾として今後何をすべきか、または何ができるかということをお話したいと思います。
 その前提として、基本的には瀬戸内海とは生活、産業、また、それらを含む人間と自然の共生の場だということを考えたいと思っています。
 今後何をなすべきかについては、これまでのことを踏まえて2 つほど述べてみたいと思います。公害問題を踏まえ、港湾においても公害防止対策事業や廃棄物処理施設事業など、例えば瀬戸内海の一般海域に浮遊するごみや油を回収する海洋環境整備事業を実施してきて、それなりの効果がありました。さらに、環境への影響を少なくすることにも取り組みを始めました。例えば、広島港の五日市では干潟を整備、神戸では須磨海岸の海岸を回復するなど、干潟や海浜の修復を実施しています。
 海に親しむ場所としては、高松市のサンポートや和歌山のマリーナシティの親水防波堤など、まさに人々が海に親しめる空間を整備しました。三田尻中関では、海水交換ができるような防波堤の整備も行っています。
 こういった取り組みによって、環境改善や環境創造に対する様々な技術的な知見が蓄積されてきました。そんな有効性が分かってきたことが第一点です。
 それから今日、公共事業においても環境保全と両立するような積極的な取り組みが求められています。そういう観点から、港湾においても環境と共生する港湾「エコポート」を形成していきたいと思っております。内容としては、沿岸域の生態系の修復や創出、それからアメニティー豊かな親水空間の創出など、いわゆる環境創造への取り組みを積極的にやっていきたいと思っています。この瀬戸内海でも、そういう環境保全、環境創造に取り組んでいきたいと思っています。瀬戸内海の良好な環境を次の世代に、
というのが基本的な考え方です。
 具体的にどんな取り組みをするか、という点ですが、まず第1 に「良好な水環境と生物生息環境の形成」です。港湾の施設の整備、導入に当たっては海水交換をよくするようなもの、または礫間接触酸化法などがありますが、こういったものを適用した、水質浄化機能を備えた港湾の施設を整備していきたいと思っています。生物生息環境の保全、創造ということでは、干潟や藻場などもつくっていきたいですし、多様な生物が生息できるような、生物と協調できる港湾構造物を整備したいと思っています。第2には、「良好な環境の整備・創造」があります。瀬戸内海には歴史的、文化的な施設がたくさんあります。それらを保全しながら港湾の景観をよくしていきたいと思います。
 第3に、「パブリックアクセスの確保」です。瀬戸内海の多くの埋立地では水際線が専用化されており、一般の人が海に近づけないところがあります。水際線に緑地と公的な空間を確保して、人々が瀬戸内海を実感できるような水際線を拡大し、そこに誰でも行けるようなアクセスを確保していきたいと考えています。
 これらの実現に向けては、瀬戸内海の環境をしっかり把握するということと、環境予測やモニタリングなど、様々な技術的な開発も必要だと思っています。また、関係者と連携しながら進めていくべきだと考えています。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 瀬戸内地域には、これまで港湾が多数設けられてきましたが、必ずしも生物との共存や人々のアクセスへの配慮が十分ではなかった。そんな反省の上に立ってのご発言だと思いますが、「21世紀の港湾をこう進めていきたい」という、かなり明るい方向での方針が示されたような感じがします。それでは、環境省としては21世紀に、この瀬戸内法をもとにどのような方向転換をしていこうとしておられるのか、再び柴垣泰介様にお話いただきたいと思います。

 

  幅広い参加と連携を推進

●柴垣泰介氏(環境省水環境部閉鎖性海域対策室長)
 昭和48年(1973)に瀬戸内法ができて、四半世紀を超えました。平成9年(1997)から瀬戸内海環境保全審議会で、これまでの反省、というか瀬戸内法に基づく施策の限界を踏まえて何をしていくべきなのかという議論を3年にわたってしていただきました。先ほども申しましたように、これまで流入負荷対策を中心にやってきましたが、それ以上に沿岸域、というか海自体の、浅海域の環境の浄化機能や生物の生息域としての役割など、そういうものをよりきちんと見直して保全、修復、回復していくことが重要ではないかという提言をいただきました。具体的には藻場、干潟などの保全や再生、これは単に守るだけではなくて、いろんな修復や再生の事業も含めたかなり幅広い取り組みになりますが、そういった課題に対して規制法としての瀬戸内法にはほとんど措置がないわけです。先ほど港湾の取り組みのご紹介がありましたが、行政のいろんな分野が連携し、また自治体、さらには事業者や市民、NGOも含めて、幅広い参加と連携が新しい取り組みには欠かせないという提言をいただいています。「尼崎21世紀の森構想」も、21世紀に向けての新しい取り組みの一つです。臨海部遊休地に森をつくり、森と水辺の環境の回復を図るというもので、貝原前兵庫県知事も特別講演で触れられておりましたが、幅広い参加と連携の芽があります。
 では、行政として、私たち環境省としては、参加と連携を訴えているだけでいいのか、ということですが、新しい浅海域の浄化機能や生物生産性と環境保全などを統合して、どういうふうに行政が施策を打てるように評価していくべきかが課題となっています。水質の環境基準というものがありますが、これらをすぐに環境基準として整備するのは難しいので、新しい観点から浅海域の評価指標をきちんとつくっていくべきではないか。まずそこから始めるべきではないかと考えております。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 幾つかのキーワードがだんだん示されてきたように思います。瀬戸内海の浅い部分、つまり浅海域の藻場、干潟の再生が今後重要じゃないか、あるいは国や地方自治体、そして市民の連携の強化を図っていく必要がある、また森と水辺を創造していくという新たな視点がここで提起されてきたように思います。一方で、先ほど産業界の方は大変苦労をしてこられた話をされましたが、これからはどういう観点が重要だとお考えになっているのかコメントをお願いしたいと思います。
 関西電力株式会社の平山孝信様、お願いします。

 

  関係者のコンセンサスが必要

●平山孝信氏(関西電力滑ツ境技術グループチーフマネジャー部長)
 本日のテーマである「21 世紀の新たな瀬戸内海の環境保全・修復・創造について」は、平成11年(1999)1月19日に瀬戸内海環境保全審議会から環境庁の長官に対して瀬戸内海における新たな環境保全・創造施策のあり方について答申がされています。この中で、沿岸域環境の保全・回復を推進するための具体的な行動計画の導入の必要性が指摘されています。大変立派な報告書で、その内容には我々としても感銘を受けるところです。ただ、この目標達成のためには関係者全員の参加が必要だと考えています。関係者といいますのは、国であり地方公共団体であり事業者です。事業者といっても企業だけではありません。企業はもちろん、漁業者、農業者、林業者までを含めて事業者として位置付けをする必要があると考えています。そして住民とこれらの関係者全員が現状を正しく認識するとともに、役割を分担して積極的に取り組むことによって進展するものと考えています。この場合、当然いろんな施策に当たっては、必ず費用がついてまわります。このように、関係者の費用負担を含めた役割についてコンセンサスを形成する必要があります。そのためには現状の経済状況を踏まえた上で、施策の具体的内容やスケジュールを十分に検討していくことが必要です。また目標の設定に当たっても、まだ具体的なイメージが明らかになっていないように思われます。取り組みの進展を目指すためには、関係者に共通のイメージ、意識の統一が大切です。そのためには十分な議論のもと、現状を把握し、それに基づいた取り組みの方向性の検討、目標の設定、取り組み、具体内容とその推進方策の検討、そしてそれをまとめた報告書、それに基づいて各主体が自主的に、あるいは計画的に取り組む実施、その後のフォロー、フィードバックとステップを踏んだ科学的な検討を進める必要があるのではないでしょうか。
 環境保全と豊かな暮らしの両立のためには、瀬戸内海圏全体のビジョンをつくり、そこから地域単位、エリア単位、市町村単位、そして小集団単位のニーズ把握とコンセンサスを柱として、“どこを対象に”、“どのようなコンセプトで”、“どのようにして”、“誰が”、“いつまでに”、といったスキームをじっくりと作り込むことが重要と考えます。
 このとき、先ほど阿部先生からもご指摘があったように、アサリをとる風景が少なくなった、昔のいい環境が少なくなったと、こういう情景についても、私も田舎者ですので深く感銘しております。私も国東の出身で、瀬戸内海に少なからず縁があり、よくわかります。ただ、このとき一番注意しなければならないのは、そこに住む人たちにとって押しつけの対策にならないようにすることです。そのためにも、産官学民それぞれが連携し、それぞれの役割を認識して、インセンティブがあり積極的に取り組める仕組みを構築する必要があるのではないでしょうか。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 国、地方自治体、そして事業者の概念を単なる企業だけではなくて漁業者も農業者も林業者も含めた事業者という考え方で、目標に向かって進めていくためのステップをかなり明確に幾つかご指摘をされたと思います。
 一方で、先ほど漁連の方が、海は必ずしも十分に戻ってないと指摘をされたわけでございますが、これからその海をよくしていくためには具体的にどんな提案があるのかコメントをいただきたいと思います。山口県漁連の金子信義様、再びお願いいたします。

 

  「漁業用水」の確保を

●金子信義氏(山口県漁業協同組合連合会専務理事)
 総体的にはただいま平山さんが言われたような内容ですが、具体的に我々漁業者としてポイントを挙げて提案をさせていただきます。
 まず、我々が今運動しておりますのが、海は海だけの問題でなく、森、川、陸も含めて、海をつなぐ環境保全運動が必要ではないかということです。地域や学校教育の場で、これらの問題をぜひ取り上げてほしいと思います。河川流域ごとに普及啓発活動を行ったり、学校では環境の仕組み、特に生態系や環境保全に関する教育活動を充実していただきたいと思います。
 次に、今までは生活用水とか工業用水という言葉がありましたが、これからは漁業用水の確保をしていきたい。これは新たな視点だろうと思います。ご案内の通り、生活用水、工業用水を確保するために各地で大きなダムがつくられています。そのダムからは、3月、6月、10月という時期に、ダムが満杯になったからと底の底層水が一度に放流されます。底層水とは何かというと、低温で富栄養貧酸素の水です。この固まった水を一度に流すものですから、海に流れても一度で海水に混ざらず、冷水塊となって浮遊します。昨年、有明海で起きた問題は、瀬戸内海でも20年ぐらい前から起きています。この問題をまず解決をしていただきたいと思っています。技術的なことはよくわかりませんが、底の水をサイフォン式に噴水状にして流すとか、ダムの下側にもう一度溜め枡のようなものをつくって、そこでオーバーフローさせて常温で流すとか、さらに迂回をさせて農業用水として使って川に流すなどの方法もあるのではないでしょうか。工業排水や生活排水についても、見た目だけではなく、生態系に悪影響を及ぼさない形で流していただきたいと思います。 ごみ問題については先ほど阿部先生からお話がありましたように、もっと工夫をして、特に生ごみは堆肥にしたりリサイクルに応用するような形での処理の仕方もあるでしょう。一般ごみについても、山の中の水源となるような場所に捨てないように、何らかの形で処理する方法を考えていただきたい。一般住民も含めてお願いをしたいところです。
 それから最後に、海底のヘドロ対策ですが、PCBや有機スズ等で汚染された海底のヘドロやごみへの対策は国家プロジェクトでやっていただきたいと思います。
 我々漁業者は、21世紀にも漁業資源を維持・存続させながら、国民の食料資源を安定供給するために努力をしています。今年から国の補助も受けながら漁業者みずからが山に木を植え、水を保有し、安定した水を確保し、魚の資源を管理して海の資源回復を図っていきたいと思っています。国民の皆さんのご理解をお願いしたいと思います。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 漁業者の方からも幾つかのキーワードが提起されました。河川の流域ごとに着眼した環境教育の推進が必要なのではないかとか、新しい言葉として、漁業用水という視点に立った水の扱い、どちらかというと、洪水対策とか農業用水あるいは工業用水という視点はこれまで十分だったけれども、果たして漁業者に対して配慮されてきたのか、それからヘドロの処理は国家プロジェクト級のやり方でなければ進まないのではないか、そして漁業者みずから海を守るために山に木を植える、そういう視点がこれから必要だと。
 先ほど柴垣室長からも、山と森と水辺という話がございましたが、流域、森と水辺、そういう視点がここで示されたと思います。
 先ほど環境学習、環境教育の立場で幾つか反省点を述べられた(財)広島県環境保健協会の薦田直紀様には、今後どういう視点で環境教育を進めていったらいいのかについてコメントをいただきたいと思います。

 

  環境教育の「さしすせそ」

●薦田直紀氏((財)広島県環境保健協会地域活動支援センター長)
 今、いろいろと議論を聞いておりまして、要点を「さしすせそ」でまとめてみました。まず「さ」は「参加の主体性を」ということです。広島県では「広島県瀬戸内海環境保全・創造プラン」というのを策定しました。それに基づいて、現在、宮島で住民など関係者が集まって、ワークショップ方式で、これから宮島をどうしていくか、宮島の環境をどうしていくかという活動を進めております。そういった意味での住民参加の主体性ということが必要になってくるのではないか。
 「し」は、「自然が一番」と、先ほどから話を聞きながら感じていました。特にこれから残すべき環境を、私たちがどうとらえていくか、どう残していくか、が大切だと思います。香川県で「残したい香川の水環境50選」というものがあります。私は香川県出身ですが、幼いころ育った海や島など、まだまだ自然環境として残っている風景もあります。これらをぜひ残していきたい、それを残すための推進制度がスタートしました。里親制度とでも言ったらいいでしょうか、そんな活動をこれからもっと進めていきたいと思います。 「す」は「水質クリーンは評価付きで」。これは住民自身もそんな評価の指標をもっと勉強して、設定した活動をすべきではないかと思います。
 「せ」は「生徒とともに」。学社融合というのは、学校教育と社会教育の融合。学校の中でというよりも学校も外へ出て、地域も学校の中へ入って、ともにその地域の課題を考えていく、そういう学社融合型の環境学習プログラムというものをこれからもっと開発すべきではないかと思います。
 最後の「そ」は「総合管理的システムへ」です。これは私たち住民団体、衛生団体ではなかなか手が届かないかもしれませんが、この後、恐らくガヴァナンスといったコンセプトも出てくるのではないかと思います。そういういろいろな関係者が一緒になって、これから瀬戸内海や水環境をどうしていくかということを考えていくための一つのシステムです。これには私たちも大きな期待を寄せています。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 「さしすせそ」、つまり「参加」と「自然」、「水質の保全」、「生徒とともに」、そして「総合管理的システム」、そういうことがこれからの環境教育の重要な視点ではないかというご指摘がございました。
 ここまで一気に走ってまいりましたが、瀬戸内海においてこれまで何がなされてきたか、何がなされてこなかったのか、そしてこれからはどういう視点に立って、瀬戸内海の環境保全対策・修復・創造に力を入れていったらいいか、いろいろとお話をしていただきました。
 会場の皆様にお願いがございます。休憩時間には、これまでの話を聞いていただいてコメントがあれば出していただきますのでご準備ください。
 ここまで一通り話を進めてまいりましたが、ここで国際日本文化研究センターの白幡洋三郎様から、人文系の研究者のお立場でコメントをお願いいたします。

 

  瀬戸内海の歴史と文化と自然

●白幡洋三郎氏(国際日本文化研究センター教授)
 3つのキーワードの最後に、「瀬戸内海の価値」という言葉を挙げました。瀬戸内海の価値とは何か。いろいろお話を伺ってまいりました。ただ、何のために自然環境を守るのかというのは常に考える。むしろ必要というよりは自然にそういうことを我々は考えるはずであろうと思います。
 瀬戸内海というのは日本最初の国立公園で、昭和9年(1934)に他の公園とともにできました。ここには既にたくさんの住民が住んでいました。都市もたくさんありました。自然環境を守るのは何のためか。当然、まずは住んでいる人のためですが、この瀬戸内海の大事な点は、もう一つあります。住民にとってというより日本にとって、日本の国民にとってという発想が必要なのです。もちろん日本だけでなく、世界の閉鎖性水域の問題点を解決するための具体策、また実例としても役立つのなら申し分がありません。
 瀬戸内海には、住民が住み始めてから2000年以上の歴史があります。文書で残されているだけでも1300年以上の歴史があり、その中でただ自然環境を守るのではなく、自然環境を守るためにはこれまでの歴史を守る。これまでつくられてきた文化を守る。この歴史と文化と自然の3つのトライアングル、それぞれが関係しあう関係を、これまで特に素晴らしかった時代をモデルにしながら今の問題点を解決していくという視点が大事ではないかと思います。
 瀬戸内海を発見したのは実は、日本人ではなくて外国人であったと、一度私は書いたことがあります。日本人は海域に住んで目の前で漁業をし、目前の海は知っていたのですが、その海が連続していて大きな瀬戸内海をつくっているという観点はほとんどなかったと思います。それが明治期、つまり近代に入って西洋の人たちがやってくる。彼らはここを通過することによって、これはまとまりのある大きな海であると気付く。あるいは今の言葉で言うと閉鎖性海域であるということを発見した。それによって瀬戸内海という観念が我々の中に広がっていったという面があります。これは住民の目でもないし専門家の目でもないし、言わば素人。素人の中でも旅行者ですね。今までの議論の中でも専門家の視点、住民の視点、地域の視点という考え方が出ましたけれども、それに加えて旅行者の視点というか外部からここに来る人たちの視点も加えていかなければいけないように思います。それは将来の瀬戸内海を守る、瀬戸内海を支援する応援団になるということです。そういう点から環境教育が非常に大事なことは言うまでもありません。これに加えて歴史・文化史の教育。瀬戸内海を含んだ、瀬戸内海が入っているような歴史・文化史の教育というのが必要ではないかと思っています。美しい瀬戸内海の風景とか、おいしい魚があるという、この瀬戸内海のイメージを全国的に広げていかなければいけない。もともとあったそのイメージをもう一度思い返すということも必要だと思います。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 先生からは、地域に根ざした土着の目だけでなく、外からの目、素人の目、旅行者の目、そういう視点も加味して事を進めていかなければならないのではないかということと、環境学習ということは大切ではあるけれど、その中には瀬戸内海の歴史とか文化にも目配りした環境学習というものが必要となってくるという、新しい視点のご指摘がありました。ここまで国内の参加者に、瀬戸内海ということに的を絞ってさまざまな角度からご発言をいただいてまいりましたが、行政と住民の連携に熱心に取り組んでこられた事例として、アメリカメリーランド州環境省長官のジェーン・ニシダ様から事例を紹介していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

  ガヴァナンスの観点から見たチェサピーク湾の保全活動

●ジェーン・ニシダ氏(メリーランド州環境省長官)
 チェサピーク湾に関して、ガヴァナンスの観点からどういった教訓を得ることができたか、それが瀬戸内海にどう役に立つかを考えていただきたいというお話をしたいと思います。
 まず、瀬戸内海とチェサピーク湾の共通点ですが、瀬戸内海は日本最大の内海で、チェサピーク湾も北米最大の河口域を形成しています。環境問題も共通のものがあります。栄養塩の汚濁、富栄養化、急速な人口の増大、そして土地利用が変わっているというものです。また、協力体制というものも自治体間で見られています。先ほども言われましたように、瀬戸内法は昭和53年(1978)に制定され、13県が関わっています。チェサピーク湾の合意が、最初に署名されたのは昭和58年(1983)で、連邦政府と4州がそれに関わっています。そこで次に、4 つの主要なチェサピーク湾のガヴァナンスにかかわる問題についてお話したいと思います。
 まず初めに必要なことは、修復の目標を全体として特定し、確立することです。チェサピーク湾では、州が一緒になって、達成期限を決めて共通の目標を立てます。例えば2000年までには栄養塩の汚濁を40%減らす、2010年までにはカニの漁獲を10倍に増やす、2010年までには湿地面積2万5千エーカーを確実に修復する、などです。また、汚濁を抑えるという具体的な目標を立てた上で、それをどう実施していくかについては、各州に任せるということです。
 2つ目の点としましては、利害関係者の参加には正式なメカニズムができているということです。まず、学会に関しては科学的な諮問委員会をつくり、大学の代表を知事のチェサピーク湾キャビネットのメンバーに任命しています。そして産業界にとってはビジネス・フォー・ザ・ベイというものをつくりました。これは企業が汚濁予防の努力をする必要性を認識した上でそれを実践していく体制です。そして市民に関しては、市民の諮問委員会も設置、また10 ほどの各流入河川の戦略チームをつくって活動をしています。NGO に関しては目標設定において彼らの参画を促し、そしてNGO は、毎年個々に年間ベースでの湾の状態に関する通信簿を出しています。学生に関しては環境教育を義務として学校のカリキュラムに組み込んでおり、毎年、チェサピーク湾のユースサミットというものも行っています。
 3つ目のガヴァナンスの観点といいますのは、学際的な、全体的なホリスティックなアプローチを採択しているということで、従来の水質戦略を超えたものになっています。また、特定及び非特定発生源、すなわち農業排水のような問題に対応しているということ。そしてまた人口の増大、土地利用にも対応している。そしてまた交通の影響、例えば港湾の浚渫であるとかハイウェイの建設といったものも扱われています。
 そこで4つ目の点としては、環境倫理あるいは管理者としての責任のあり方というものを考えているということで、その説明責任のもとにパフォーマンスの測定をしています。そして政府の行動を通じてそれをリードし、また一般市民がみずからの頭の中でチェサピーク湾の生態系というものをしっかり認識できるような意識向上手段を図り、湾を救うという緊急性の意識というものを育てているのです。(事務局訳)

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 大変短い時間で瀬戸内海と同等のチェサピーク湾の対策の話をしていただくという無理なご注文を申し上げて申し訳ありませんでした。ここでまた新しいキーワード「ガヴァナンス」という言葉が出てきました。かいつまんで申し上げますと、学者は学者の立場で、ビジネス界はビジネス界の立場で、市民は市民の立場で、しかも流域単位でそういう委員会を設けて、そしてNGO はNGO できちっと通信簿を出すというか監視を行うこと、また、チェサピーク周辺の学校はチェサピークのことを学ぶということが義務付けられているということ。それから、環境倫理あるいは管理者の説明責任が明確に示されてきたわけです。果たして、そういうことが日本の制度に位置付けられているのかどうか、非常に示唆の富むご提案であり、事例のご報告だったと思います。
 ここまで話を続けてまいりましたが、以上を受けて、総括的に瀬戸内海研究会議の岡市友利様に取りまとめをお願いしたいと思います。

 

  ゼロエミッション社会構築の実験場

●岡市友利氏(瀬戸内海研究会議会長)
 今、この会場で皆様方から話を伺ってきた内容のそれぞれについて、私が感じたことを申し述べさせていただきたいと思います。
 まず第1に、瀬戸内海を瀬戸内海という小さい形で見るのではなく、国全体でゼロエミッション社会を、つまり循環型社会をどう構築していくかというところの、まさに格好の実験場がこの瀬戸内海であるという感じがします。それは、今、皆さん方から提案された、あるいは発言された内容の中にそれぞれ込められていると思います。ただ、行政側について言えば、基本的には環境保全に向かった、ある意味では高いレベルの理念を持っているわけですが、実施段階では必ずしも実現されがたい。特に住民側の不安としては、一方で高い理念がありながら、実際していることとの大きなギャップがある。そのギャップについて、今、西田長官からお話があったような説明責任を行政側が十分果たしてないのではないかという懸念を私自身も持っております。瀬戸内法が何をしてきたかということのプラスの面については、今随分話をされました。しかし、瀬戸内法がありながら何ができなかったかということもまたあり得たわけです。今後どのように瀬戸内法の理念を構築していくか、産官学民、それからNGO 、市民全部含めて、取り組むべき非常に重要な課題だと思います。
 それで、NGO の人たちにも私は一つ言いたいことがあります。というのは、NGO はそれぞれの地域で活躍されている。場合によっては、薦田さんのように国レベルで活躍されている場合もありますが、どのように意見を集約してガヴァナンスの中へ組み入れていけるのかということです。結論的に言いますと、瀬戸内海には知事・市長会議があります。これは今では13 府県と13 市の政令都市、中核市を含んでおり、その知事及び市長が参画しているわけです。これは設立初期には非常によく機能してきました。1970 年代、瀬戸内法とともに瀬戸内海の環境保全に役立ってきました。しかし最近、その活動が少しにぶってきている。私にしてみれば、その中にガヴァナンスとしての住民参加の良いチャンスがあると思っています。ただチェサピークの例のように、市民諮問委員会あるいは顧問委員会が、直接知事や市長のレベルへ入るのではなく、知事・市長会議の下の幹事会へまず市民団体が参加していく。それを通じて知事・市長会議全体の中で住民団体の理念を組み入れていくということです。
 一昨日のNGO の会議で、いろいろな良い提案がありました。まず、調整機能が必要である。これは住民団体の人たちは全体として調整機能が必要であろうと私は今でも思っていますし、それにもう一つ提案がありました。小さな団体から少しずつ大きな団体へ結びつけていって全体としてのコネクションをつくるという方向で住民参加を達成していきたいと思います。
 もう一つ付け加えますと、今、白幡先生が、「我々は歴史・文化史的な立場で瀬戸内海を見る必要がある」と言うときに、私たちは瀬戸内海にある島を見捨ててきたのではないかという思いがしています。瀬戸内海には1,015の無人島があります。有人島は160です。その中に約50 万人に近い人が住んでいる。そういう人たちの思いを満たさないまま海域保全をしてきたのではないかという反省。これは、実際に自分が海洋環境の調査をしているときに、島の人たちとそんなに話をしたかという反省の念を持って話しているわけです。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 チェサピークの例を見ながら、瀬戸内海地域において、これまでとかく公の側からはいろいろな施策を講じてきたけれど、住民の思いとの間に大きな乖離がある、住民の思いを公に伝えようとしてきたのだろうか。従来、知事・市長会議がせっかくありながら、そこに住民の声が反映されるシステムが入っていなかったというご指摘でございました。
 それから、もう一つ、大きな瀬戸内海を守るときに、島の人々のことを本当に考えてきたのだろうかという、欠落していたかもしれない視点のご指摘もございました。
 会場の参加者の方から一通り話を聞いていただいて、発言に対してコメントなり、あるいはご提言なりをこの休憩時間の間にご提出していただいて、それを踏まえて再開したいと思います。今度はそのコメントを踏まえながら円卓参加者との話を進めていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

 

 
(休憩)
 

  管理型漁業の推進
●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 それでは、総括のセッションに入りたいと思います。実は、セッション参加者のコメントをいただきましたところ、我々の想像を超える多数にのぼりました。3 〜4つのコメントをいただいてそれを紹介するシナリオだったわけですが、大変膨大な数になってしまいましたので、私と柳先生との間でまとめながらご報告をさせていただくことにします。円卓参加者に対するご質問が幾つかありますので、そちらから先にお答えをいただきたいと思います。
 特に多かったのが、漁連の金子さんに対する質問です。漁獲高が減っているということですが、魚のとり過ぎではないか。もう少し資源保護の観点が重要ではないかということとか、あるいは天然魚の漁獲高は減少傾向と言うけれど、養殖はどうなっているのか、などというご質問がありますので、海とお魚という観点で質問に答えていただければと思います。

●金子信義氏(山口県漁業協同組合連合会専務理事)
 まず、天然魚のとり過ぎではないかというお話ですが、まさに一時期はそういう状況でした。ところが、漁業者も生活がかかっておりますし、また養殖技術も発達をしてきました。「栽培漁業」という言葉を使いますが、卵から稚魚を育て、そして放流をする技術を開発し、実行しています。
 まず、とり過ぎを防ぐために、漁業者みずからが禁漁期間を設けるなど、獲るだけでなく育てる期間もつくってきております。また、小さい魚をとらないように網目を大きくしたり、とらない海域を設けたりという形で、管理型漁業の推進を手がけています。
それから、来年からはとらない時期をもっと長くしたり、特定の魚はとらないようにするなど、資源回復計画を取り入れて始めようとしています。漁業者の数も、漁獲が減ったために一時の3 〜4割ぐらいに減少してきています。ですから現在は、とり過ぎというか漁獲可能量、漁獲圧力そのものも減らしているのです。
 それから、養殖魚ですが、特に高級魚と言われているブリ、タイ、カンパチ、それからフグなどの養殖を始めており、逆に言えばこれも餌のやり過ぎなどから海を汚染している地区もあります。この辺についても今改善を図っているところです。養殖魚そのものは安定した生産が続いています。特に天然魚が減ったため、養殖魚で補わざるを得ないというのが現状でです。

 

  企業の所有する遊休地の活用

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 次に、関電の平山さんへの質問です。瀬戸内海の埋立てというのは企業用地になっているところが多いようですが、遊休地の有効活用や企業が専有している土地を一般に開放するなど、市民が入っていけるような方向性が見られるのでしょうか。

●平山孝信氏(関西電力滑ツ境技術グループチーフマネジャー)
 まず、埋立てをする場合、当然、不必要な面積まで埋立ての許可がおりないという法的な制約があります。こういう中で遊休地が出てくるというのは、今の経済の地盤沈下あるいは空洞化も原因です。ただ、こういうものについても、それぞれの企業が今後の地域の発展と生産性の向上と合わせて、どう有効利用していくか模索しているのがほとんどでしょう。私ども関西電力の発電所の建設を例にとってお話ししましょう。発電所を建設する場合は、敷地の25%以上に緑地を設けることが義務付けられています。しかし、それ以上に一般の方々がフリーに入ってこられるような緑地、散歩や散策が楽しめるような遊歩道をつくるなど、地域環境に調和した発電所づくりを目指しています。例えば、この近くですと、大阪の南港発電所がありますが、ここでも一般の方々がフリーに入れて、遊べるような空間を提供しています。
 遊休地については、地域の活性化にも役立つ形で、どのように利用をしていくかが今後の検討課題です。先ほど環境省の柴垣さんがおっしゃっていた「尼崎21 世紀の森」構想の対象エリアにも関西電力の発電所の用地が入っています。これらについても、行政の方々とも連携を図りながら進めていきたいと考えています。

 

  住民参加の新しい港湾づくり

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 企業もこれからは住民がアクセスしやすいような方向に方針を転換している動きがあるというご紹介がございました。
 今度は福田さんですが、港湾の整備について新たな視点が導入されているのはわかるけれども、官だけで計画を進めているだけで十分なのか、むしろ住民の知恵を求めないと、幾ら自然との共生とか、あるいはアメニティーあふれる港づくりについても、机上の空論に終わるのではないかというご指摘が幾つかありましたので、その点に関してお考えをお示し願えたらと思います。

●福田幸司氏(国土交通省近畿地方整備局港湾空港部長)
 まず岡市先生の方から、「行政は理念は高いが、実施に向けてのギャップがある」と、これまで説明が不足してきたことが言われました。ある意味でその通りだと思っています。国土交通省では、コミュニケーション型行政の推進ということで、いろんな事業を進めるに当たって関係者や地元の方々の意見を聞きながら、またこちらからの意見も言いながら、今後の事業を進めていきたいと考えています。いろいろな関係者の意見を聞きながら、使いやすいもの、いいもの、安全なものをつくっていきたいと思っています。
 それから、NGO の参加ということは、まさにその通りだと思っています。これからいろいろな施設をつくることはできると思いますが、一番大切なのは、それをどういう形で安全に維持管理をするか、また利用しやすいようにしていくかというところだと思っています。そういう意味で施設の維持や管理などについては、公的なものでは限界があります。NGOの協力を得ながら施設を管理していくということが大変大切だと思っています。小さな行政が求められているということもあり、NGOとの協力関係というのは大変大切だと思っていますので、今後是非連携していきたいと思っているところです。

 

  下水道整備の今後の課題

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 次に、同じ国土交通省の下水道のことについて若干辛口のご質問があります。北九州の洞海湾の水質改善の話を聞くと、必ずしも流域下水道が整備されなくても、むしろ別のやり方で水質改善が図られてきたのではないか。むしろ流域下水道そのものは、ますます海と川とのかかわりを薄くして生態系を貧しくしていると思うがいかがか、とご質問が来ています。

●尾崎正明氏(国土交通省近畿地方整備局建政部都市調整官)
 最も有効、効果的な施策というのは地域的な特性によると思います。生活系の排水の汚濁が多いところでは効果が大きいでしょうし、その辺は地域によって違うと思います。また、流域下水道が海や川との関わりを薄くするというお話ですが、下水道だけでなく、水洗トイレが普及したことにより、自分の使った水がどこへ行くのかという意識が少し薄れてきているのではないかと思います。
 下水道整備には、水系のリスク管理という意味でも多くの問題があります。例えば環境ホルモンの問題では、家庭からも環境ホルモン物質が入ってきて、下水道で処理できないものは自然に水域に出たり、食物連鎖の関係で再び回帰する、というような研究も始まっています。こういったものも含め、わかってきたことを広く情報公開しながら、必要な対策については今後十分な説明を行い、住民の合意を得て施策が進められていくべきだと考えています。

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 あるいはご専門でないのかもしれないのですが、先ほどダム放流の話で、漁業者に対する配慮が少し欠けているというご指摘がありました。ダムの水を流すことについて、何かございますでしょうか。

●尾崎正明氏(国土交通省近畿地方整備局建政部都市調整官)
 その辺は直接担当ではないのですが、一度に放流することによる問題は今後の課題として考えています。

 

  総量規制の意味

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 確かに工業や農業ばかりに力点を置くと、漁業に対して配慮がなされないということが起こります。「観光放流」といって、観光客が集まるときだけ水を流して、冬になると完全に枯渇させるという放流の仕方もあります。ダムの放流一つとっても、これから総合的な視点を入れていかなければならないのではないか、というご指摘があったと思います。
 柴垣さんには、やや具体的な質問がありました。総量規制で窒素とリンを削減するということですが、その意味をご説明いただきたいということです。

●柴垣泰介氏(環境省水環境部閉鎖性海域対策室長)
 総量規制という本来的な意味は、例えば大気汚染の場合、硫黄酸化物の総量規制などは、環境許容量のようなものを設定し、その範囲内に下げるために発生源に許容排出量を割り当てる、というようなことです。ただし、水質の場合には、同じ総量規制と言ってもかなり違います。言葉を変えれば、総合的、計画的な負荷量削減制度と言った方がいいのではないでしょうか。これまで、工場や事業所を中心としたポイントソース(特定発生源)への規制をやってきたのですが、それだけでなく、ノンポイントソース(非特定発生源)も含めて産業系、生活系、その他系と分けて、ポイント以外は原単位の計算も取り入れながら、現状で1日当たり何トン流入しているか割り出します。それを5年後に何トンまで下げるという目標をつくります。では、それをどうやって達成していくのかについては、将来的な技術の進展も考慮には入れますが、達成可能な限度ということで設定します。特に、ノンポイントソース(非特定発生源)につきましては手段が非常に乏しいのですが、下水道の整備や、家畜糞尿処理の適正化や農業の肥料の適正化などによる対応となります。あとはポイントソース(特定発生源)について総量規制基準というもので、もともとの濃度規制の基準に排水量をかけた基準によって目標量を出し、5年単位で規制を強化しつつ、目標を何回も下げていきます。CODは今まで4回総量規制を実施しており、今回の第5次においては窒素、リンも対象に追加して実施しようとしています。

 

  今後の瀬戸内海の保全に向けて

●コーディネーター(櫻井正昭氏)
 ある特定のポイントに絞ったご質問というのは、おおむね以上の通りです。ご提案が大変多数ございまして、それを全部ご紹介するというのは難しいので、どんな種類のご提案があったかについて紹介した上で、円卓参加者に補足の発言をしていただきます。
 非常に多かったのが瀬戸内法というのは、特別立法ではあったけれど、まだ自治体とNGO 、住民、漁業者が総合的に参加するような仕組みにはなっていないのではないかというものです。したがって、瀬戸内法の抜本強化見直しなど、そんな視点を入れた法改正が必要ではないかという意見がかなりたくさんありました。
 それから調査研究についてもたくさんの意見がありました。それぞれの水域の漁獲高との関係も踏まえながら、窒素とかリンの問題について十分な調査が必要なのではないかという意見や、農薬や界面活性剤などの関係についても明確にした上で調査研究を進めて国民に結果を公表してもらいたい、というようなご要望もありました。また、いろんな計画が立てられてはいるけれど、いつまでにだれがどんな方法で、それを具体化していくのかということが必ずしも明確にならないまま、きれいな言葉が並んでいる。例えばチェサピーク湾の場合のように、瀬戸内地域でももっと具体的にされるべきではないかというご提言もあります。
 それから環境教育については、とかく子供を教育すれば事足りるという動きがあるけれども、本当に悪いのは大人なんじゃないか。大人の教育はどう考えたらいいのかという話ですね。平均的な国民というのは、潮干狩りだの釣りだのと、楽しみの方には目を向けるけれども、その結果として海が危機に陥っているということをあまり気にしていない。そういう人に対して、きちんと啓発することが大切だというご提案もあります。
 それから、瀬戸内海地域においては、環境を学ぶことを基本方針にするぐらい、徹底した環境教育をしないといけない。それぞれの教師に任せていたら、得意の先生は熱心だけど、そうでない先生は放ったらかしになるというデコボコが生じるのではないかという意見もあります。環境教育の問題、調査研究の充実の問題、それから住民の意見が反映できるようなシステムの構築、といったことが多数の中から取り出した総括的なご提案と言えると思います。
 ただいまの会場の参加者からのご提案に対して何かコメントをしていただける方がいらっしゃれば挙手をいただきたいのですがいかがでしょう。

●金子信義氏(山口県漁業協同組合連合会専務理事)
 最後にありました教育問題ですが、我々から見れば、漁業者がどれだけ努力をして資源の維持存続を図っておるのか、それから、どれだけ海に生活する人たちが迷惑を被っているのかが認識がされてない。この辺りをもっと情報発信をすべきだと痛感しています。戦後世代の団塊世代は、高度成長期に育ち、何不自由なく育った世代ですから、環境教育という意味では非常に欠如しているのではないか思います。

●薦田直紀氏((財)広島県環境保健協会地域活動支援センター長)
 学社融合というのは大変重要なキーワードです。必ずしも次の世代の子供たちを変えればいいという発想ではなく、むしろそこに今生きている大人に責任がある。特に私は、知識や理科的な教育より、歴史や文化、またこれまでのいろんな体験、言葉を変えれば、感性をもっと持ち、子供たちの感性を揺さぶるような取り組みが必要だと思います。今、環境教育でも体験型の学習や、子供のセンス・オブ・ワンダーをもっと見開かせていくような役割を大人がどう持つべきかということをやっております。水問題も同じで、子供だけでなく大人も一緒にする、ということが重要だ思います。

●阿部悦子氏(環瀬戸内海会議代表(愛媛県議会議員)
 調査・研究ということに関してですが、特に私は環境施策、アメニティーや親水空間の創出ということに関して十分な調査・研究がなされた成果がまだ発表されてないという気がしています。藻場、干潟の創出ということが言われておりますが、まだまだその成果が私たち住民の目に明らかになっていません。環境修復技術というときには、ほかの埋立て、開発などとセットになって、修復技術ということが、藻場、干潟の創出ということが出てくる場合がほとんどですが、私はまず開発の規制、埋立ての規制から手がけるべきではないかと。
 それからもう一つ、アメニティーの創造と言われますが、人間が手を加え続けなければ保全できないような、一度人間が手を放してしまうと荒廃してしまうような空間を目指すべきではなく、自然が自然の快復力でその場が続いていくという空間を、今後瀬戸内海においてつくり出していかなければならないのではないかと思います。

●井上正治氏(北九州市環境局環境保全部長)
 環境教育の件と、計画をつくったときに具体的にいつまでにだれがというお話、2点についてお話をさせていただきます。環境教育につきましては、これは一朝一夕で成り立つものではありません。継続性が必要で、息の長い取り組みをしていくべきです。
 ポイントだけ申し上げると、薦田さんがおっしゃったように、環境教育とは知識や理解でなく感性の問題。これは同感です。それから、環境教育をする場合、教育をする方の教育、要するにリーダーの育成、それから学校の教師の育成、これも大事なことだと思います。それから、子供が将来を担うわけですから子供の教育というのも大切です。義務付けの話がありましたが、法律で義務付けるのはいかがなものでしょう。そこは学校の教育の中で、例えば私どもは環境に関する低学年用の副読本をつくっていますが、そんな形で、自然と身につくようなものが必要だと思っています。
 それから、計画の具体性といった面ですが、何事でも計画をつくったときには、明確な目標と役割分担、実行した場合の効果をはっきりと住民の方に知らせて、コミュニケーションの場をつくっていくことが非常に重要です。行政は住民に対して説明責任を果たすことが最も重要だと思っています。

●ジェーン・ニシダ氏(メリーランド州環境省長官)
 2つほど申し上げます。まず教育、大人の教育に関してですが、全く同感です。個々の人間が責任を持って対処するためには、大人を教育する必要があります。チェサピーク湾の場合にはメディアを、マスコミをこの教育に巻き込んでいます。ボルチモア3市が毎年、市民として皆さんがチェサピーク湾の問題にどう関われるかという特集を組んで記事を載せています。
 また、市民の参加に関しましては、本格的な形で地方自治体とNGOを巻き込んでいくことが必要です。完全な形で参加できなければ彼らはパートナーとして見なされないことになってしまいます。本当の意味での協力のプロセスを推進する。対立関係でなく協力の関係を推進するためには、完全な形での参加が必要だと思います。(事務局訳)

●柴垣泰介氏(環境省水環境部閉鎖性海域対策室長)
 2点ほど申し上げます。1つは計画の問題ですが、瀬戸内海の基本計画、マスタープランは昨年12月に22年ぶりに全面改訂されました。それを具体的な施策にどう結びつけていくかという点で、マスタープランにも目標の明確化が必要です。また行動計画などをつくって目標を明確にし、情報公開をしつつ、説明責任を果たしていくことが重要です。先ほど総量規制の話をしましたが、これから総量削減計画という1日当たりの発生総負荷量などの数値目標を持った計画をつくるわけです。これについても、今までPR不足だったと思いますので、そういったことにも取り組んでいきたいですね。
 もう1 点は、瀬戸内法の抜本的改正についてです。瀬戸内法自体は環境規制法ですが、干潟や失われた環境の再生、修復ということについて、規制法という手法でいいのかどうかということ。また、より幅広い、行政も含めた連携、協力を果たすためには、瀬戸内法の改正がいいのか、それとも新たな法制度がいいのか。また、法制度に至るまでのプロセスとして、何に取り組んでいくべきなのか、など、いろいろ考える必要があると思います。

 

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