Seriola quinqueradiata Temminck et Shlegel

硬骨魚綱 スズキ目 アジ科


1.ハマチはどんな魚?

皆さんよくご存じのハマチ、実は正式な名前(標準和名)はブリです。ブリはスズキ目アジ科ブリ属に属する種類で、日本近海に生息するブリ属4種類の中で最も多く、漁業的にも最も重要とされています。じゃあ、ハマチって呼び方は間違い?これについては後ほど詳しくご説明することにして、まずはブリとして特徴などをみていきましょう。

ブリ(ハマチ)
写真  ブリ(ハマチ Seriola quinqueradiata Temminck et Shlegel)

2.形態

ブリの体は紡錘形(ぼうすいけい)で、背方は青緑色、腹方は銀白色を呈し、口の先から目を通って尾鰭(おびれ)の付け根近くまで、幅広い黄色の帯がみられます。鱗(うろこ)は細かく、アジ科の仲間ですがアジのような稜鱗(りょうりん;ゼイゴのこと)はありません。同属のヒラマサと非常によく似ていますが、上顎の後端が角張っているなどのちょっとした違いで見分けられます。大きなものでは尾叉(びさ)長(尾鰭(おびれ)の中央の切れ込んだ部分までの長さ)80p、体重10sほどになります。

3.分布

ブリは日本近海の固有種(日本近海だけに生息する種類)で、北海道近海から東シナ海までの広い範囲に分布しますが、成長に伴って大きく生息場所を変えることが知られています。

4.生態

ブリは尾叉長3pほどで流れ藻に群れで寄り添うようになるため、モジャコと呼ばれます。流れ藻に寄り添うのは捕食者から身を隠すためと考えられており、流れ藻と一緒に潮流に乗って移動していきます。こ の頃は大型の動物プランクトンや魚の稚魚(ちぎょ)を食べていますが、尾叉長7pほどになると流れ藻を離れて沿岸の浅い場所へ 移動し、内湾や内海でしばらく生育しながら完全に魚食性へと変わります。瀬戸内海に入 ってくるのもちょうどこの頃で、2歳くらいまでそのまま留まります。ただし、流れ藻の量によって数は大きく変動するようです。3歳になって成熟すると、夏に北海道まで北上し、秋に南下して主な産卵場で ある東シナ海へ戻るという南北大回遊をします。産卵期は2〜7月と長く、特に3〜5月に盛んになります。

モジャコ
写真  ブリの稚魚(ちぎょ)(モジャコ)

5.出世する!?

ブリはボラやスズキなどと同じ「出世魚」としても有名です。魚が出世するってどういうこと?と思われるかも知れませんが、 決して肩書きがついて偉くなっていくわけではありません(当たり前ですね)。

「出世魚」と呼ばれる魚は、成長に伴って呼び名が変わります。ブリの場合は モジャコ(約3〜7p)→ツバス(約15〜30p)→ハマチ(約40〜60p)→ブリ(約60p以上)となります。皆さんもご存じのとおり、江戸時代までは、武士や学者などは元服や出世の際に名前を変える習慣がありましたが、これになぞらえて成長とともに呼び名の変わる魚を「出世魚」というのです。なるほど、ハマチという名前はブリの成長途中の呼び名であり、決して間違いではないんですね。

ちなみに、この呼び名も地方によって異なり正確に整理するのは困難ですが、関東と関西で大きく分けると表のようになります。 なお、養殖されたものをハマチ、天然のものをブリと呼んでいる場合も多いようです。日本海側では小型のものをまとめてフクラギと呼んでいます。

表 ブリの呼び名
サイズ
関東
関西
10〜30p
ワカナゴ
ツバス
30〜40p
イナダ
メジロ
40〜60p
ワラサ
ハマチ
60p以上
ブリ
ブリ

6.養殖魚の代表選手

全国各地でいろいろな養殖が行われていますが、海産魚類の養殖で最も盛んなのがブリの養殖です。千葉県以西で行われており、特に九州付近で盛んですが、瀬戸内海でも養殖量は多く、ブリの漁獲量全体の90%以上を占めています。香川県ではハマチとして県の魚にも指定されています。

ブリの養殖はモジャコ漁から始まります。モジャコ漁とは、流れ藻に付いているブリの稚魚(ちぎょ)(モジャコ)を流れ藻ごと網ですくい取る漁で、この方法で集められた稚魚(ちぎょ)を養殖に用いるのです。同じく養殖の盛んなマダイやヒラメなどは、人工的に卵からふ化させた仔魚を育てた人工種苗(じんこうしゅびょう)が用いられていますが、ブリではまだ試験段階で、養殖に用いるほどの大量種苗(たいりょうしゅびょう)生産には至っておらず、天然の稚魚(ちぎょ)が頼りになっているのです。

集められた稚魚(ちぎょ)はサイズ毎に養殖生け簀(いけす)に収容され、豊富な餌を与えられて大きく育っていきます。養殖生け簀(いけす)は、木や金属で出来た枠に袋状の網が吊り下げられた構造になっており、波の影響の少ない内湾などの、比較的潮通しの良い場所に浮かべられています。餌はイワシ類やイカナゴなどの生魚の他、最近は配合餌料やモイストペレット(カタクチイワシ、イカナゴなどの小魚と配合飼料の粉末を混ぜ合わせて粒状に成形したもの)が多く用いられています。

ブリ養殖は1927年に香川県で放養(ほうよう)されたのが始まりとされており、その後生産量は急速に増加し、1970年代以降は15万トン前後で推移しています。その後生産量の急激な増加から価格が暴落し、近年はマダイなどの養殖も盛んになってきましたが、それでも養殖魚生産量の4割近くを占めており、相変わらずNo.1の座を守っています。瀬戸内海は地理的にも養殖に適しており、全国の1割程度の養殖ブリが生産されています。

海上の養殖生け簀(いけす)

7.ブリ(ハマチ)の利用

養殖が盛んなことからも判るように、ブリは刺身、寿司ネタ、照り焼き、煮付けなど、様々な料理として広く賞味されています。養殖されたハマチサイズのものは天然物に比べて安価で流通量が多く、今では切り身や刺身などとしてスーパーマーケットでも普通に販売され、決して手の出ない高級魚ではなくなってきました。一方、サイズの良い天然物は別格で、特に冬の天然ブリは「寒ブリ」と呼ばれ、脂がのって大変美味なため、高価で取り引きされます。北陸では、冬季に産卵に向かうブリが岸近くを南下するため、大型の定置網で多く漁獲され、富山県の「氷見ブリ」といったように、ブランド名が付けられています。また、関西では塩ブリを正月の祝物とする風習があります。漢字の「鰤」は、このように師走が旬の魚であることが由来となっているようです。

身の味ばかりでなく、大型で引き味も良いことから釣りの対象魚としても人気が高く、餌釣りからルアーフィッシングまで、多くの太公望(たいこうぼう)がブリを狙って竿を出しています。

ハマチの切り身
鰤寿司

8.瀬戸内海とブリ(ハマチ)

ハマチの養殖が盛んな瀬戸内海ですが、1960年代後半から赤潮が頻発するようになり、兵庫県や香川県など、特に生産量の多い播磨灘で養殖ハマチの大量斃(へい)死による漁業被害が問題となっています。赤潮の発生は海水の富栄養化(植物プランクトンの餌となる有機物などが非常に多くなること)が大きな引き金となりますが、その大きな要因は工場・家庭排水の流入による有機汚染と言われています。また、1974年には水島石油基地から重油が流出する汚染事故が発生し、周辺の養殖ハマチが全滅するという深刻な事態に陥りました。養殖生け簀(いけす)に入れられた魚たちは逃げることもできず、ただ死を待つしかありません。

瀬戸内海は静穏で養殖に向いている反面、四方を陸に囲まれているため、こういった海洋汚染が起こりやすい場所でもあるのです。大事な漁業資源を守るためにも、瀬戸内海の自然環境をよりよい方向へと導いていくのが私たちの努めなのではないでしょうか。

【参考文献】

1) 落合 明・田中 克:新版魚類学(下).恒星社厚生閣,東京,804-813(1986).
2) 渡辺 競編:海面養殖と養魚場環境.日本水産学会監修,水産学シリーズ82.恒星社厚生閣,東京,130(1990).
3) 岡市友利・小森星児・中西 弘編:瀬戸内海の生物資源と環境.恒星社厚生閣,東京,272(1996).
4) 中坊徹次:アジ科.日高敏隆監修,日本動物大百科−6.魚類,平凡社,東京,113-114(1998).
5) 中坊徹次・町田吉彦・山岡耕作・西田清徳編:以布利 黒潮の魚.大阪海遊館,大阪,54,198(2001).
6) 濱田英嗣:ブリ類養殖の産業組織.成山堂書店,東京,227(2003).


前のページ次のページ